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今年の春の選抜高校野球は、沖縄の興南高校が優勝旗を手にし、一昨年に引き続き沖縄県勢の優勝となりました。決勝で敗れはしたものの、日大三高の山崎投手が、脳腫瘍の摘出手術という文字通り「死線を越えて」戦った力投は、感動の一言でした。
昨年来から「ピーター・ドラッカー」の著書が静かなブームとなっています。
現下の経済状況の中で、自社をもう一度見つめ直す「拠り所」と感じている経営者が多い証でしょう。
その中で、「高校野球の女子マネージャー」と「ピーター・ドラッカー」という一見何の関係もなさそうな
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』という異色の本が、38万部を突破する大人気を博しています。
今回のかわら版では、この本のご紹介を通じて、「企業・組織マネジメントの父」と言われる「ドラッカー」を考えて見たいと思います。
物語は、東京都立程久保高校の野球部女子マネージャーとなった「川島みなみ」が、マネージャーって何だろう?という疑問の答えを見つけるため、「マネージャーやマネジメント」に関する本を書店に探しにいったところ、店員から、「世界で一番読まれたマネジメントに関する本」ということでピーター・ドラッカーの「マネジメント エッセンシャル版」を薦められ、購入するところから始まっていきます。
本を読み始めて、「マネージャーの資質」という項目にドキッとします。そこには、
「・・・学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身についていなければならない資質が一つだけある。才能ではない。真摯さである。」
とあり、その文章を読んだ瞬間、目から涙があふれ出して、止まらなくなってしまいます。
そして、幼なじみの有紀とともに、みなみは考えます。
「・・・われわれの事業は何かとの問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。わかりきった答えが正しいことはほとんどない。・・・」
・・・「野球部の“事業”は“野球をする事”ではないのか?」
「顧客によって事業は定義される。」「顧客は常に一種類ではない。」「ほとんどの事業が少なくとも二種類の顧客を持つ。カーペット産業は建築業者、住宅購入者という二種類の顧客を持つ。」
・・・「顧客は野球を見に来る人? 親? 東京都?」
みなみは野球部の「事業」と「顧客」を悩みながらも確実に定義していき、そのことが野球部のマネジメントの根幹となっていきます。
企業は、製造業か販売業かなど業種業態を問わず、「事業とは何か」「顧客は誰か」についてが、最も根幹の「出発点」であることは言うまでもありません。
前述のカーペット製造業者のように、直接納めている建築業者だけが顧客ではなく、これを使う住宅購入者も顧客であり、「その顧客の次の顧客」の満足をも追求することに、「事業」と「顧客」の重要な定義の意味があります。
自社の「顧客」と「その顧客の次の顧客」は誰なのか、自社の「顧客」がその「次の顧客」に高い評価を得るために何ができるだろうか、という発想です。
また「事業とは何か」を考える場合、例えば外食産業という「事業」であれば、「料理を作ってお客様に食べていただくこと」と考えるのか、「おいしいものを作って、お客様に楽しんでいただくこと」と考えるのかで、会社の方向性と社員の行動意識は異なるはずです。
このことは、身近な例ですが掃除をするという「行動」ひとつにしても、「掃除をすること」と考えるのか、「きれいにすること」と考えるのか、挨拶をするという「行動」ひとつにしても「挨拶をすること」と考えるのか、「相手に元気と笑顔を差し上げる」と考えるのかで、大きな違いがあることに通じていくはずです。
更に「マネジメント」の中にある「キャデラックの例」では、「農村部も豊かになってきた1920年代。GMのキャデラックの競争相手は、他の自動車ではなく、ダイヤモンドやミンクのコート。顧客が購入するものは、もう“輸送手段”ではなく“ステータス”である。」とあります。顧客変化に対応した事業定義を行ったキャデラック事業部の成長は、参考となります。
「・・・マーケティングは顧客からスタートする。・・・われわれは何を売りたいかではなく、顧客は何を買いたいかを問う。
われわれの製品やサービスにできることはこれである、ではなく、顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれであると言う。」
そこで、みなみは「野球部を甲子園に連れて行きたい、という自分の欲求をまず言うのではなく、何を「顧客」が欲しているのか。」という点に取組んでいきます。
そして、野球部の顧客と定義付けた「野球部員」へのマーケティング、「部員という顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足は何か」ということの観察調査・面接調査をスタートさせていきます。
「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。・・・しかし人は、これらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。・・・」
「人」をそのように考えたことのなかったみなみは、この考えに強く共感します。そして、今までは負担でさえあり、できれば関わり合いたくなかった一年生女子マネージャーの文乃の「強み」に目を向けて、活かしていくようになります。
中小企業経営はまさに「長所伸展法」です。
もちろん「2つの譲れない土台」は非常に大事です。1つ目は、会社の最も根幹である「経営理念」、つまり「社長の信念」に賛同していることは、その会社の社員の絶対条件です。
2つ目は、自社の社員の条件として、「職務力と人間力について譲れない最低条件」は必ずあります。
その「2つの土台」の上においては、やはり「長所伸展法」の視点が、最も現実的かなと思います。
苦手や弱みの克服も大事です。しかし、それよりも「得手」と「強み」を活かすことに重点をおいた方が、特に中小企業の場合には、組織としての力を出せるはずです。また、それによる「弱点の中和」も期待できます。
「社員全員が精鋭」というのが理想ですが、難しいのが現実です。
しかし、「強み」を結集して、「組織」として「精鋭」を目指すことは可能です。
物語の中で都立程久保高校がある西東京地区は、甲子園優勝経験校が三校もある激戦区です。ちなみに今年の選抜で準優勝の日大三高もこの地区です。
その中で、よくても「三回戦どまり」の都立程久保高校が甲子園を目指すのは普通に考えれば「非現実的」であり、その実現のためには絶対に「イノベーション(新しい価値の創造)」が必要となります。
「・・・企業の第二の機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生みだすことである。・・・」
「・・・イノベーションの戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。・・・」
上記の「マネジメント」の中の言葉から、みなみや監督は、最終的に「二つの戦術=ノーバント・ノーボール作戦」をたて、そこに野球部の限られた「全資源」を集中させて、予選に臨んでいきます。
ここでヒントになる言葉は、「捨てる」という言葉です。「やらないこと」といった方が適切かと思います。「うちの会社はこれをやらない」と。
また、「マネジメント」の本の中に「もし、今日これをまだやっていなかったら、新たにやり始めるか」という問いがあります。この問いに「NO」という答えのことでも、「実は今日もやり続けている」というようなことは、目を配るといくつかはあるものです。
何かを「はじめること」より、「やめること」の方が結構難しいものです。もちろん、短期的に結論が出ないもの・数字では測れないしがらみや影響があるものもあります。
しかし、ヒト・モノ・カネが限られた中小企業の経営資源の中では、「全方位型」は難しい陣形です。
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この本の著者「岩崎夏海氏」は、人気テレビ番組の放送作家や人気アイドルグループのプロデューサーの出身という異色の経歴です。
本を読む前にこの点に非常に驚きました。
「経営」「組織」「企業」・・・という切り口を「高校野球」、しかも「女子マネージャー」を通じて見てみる、というのは、まさに「斬新な発想」であり、なかなか思い浮かばない発想だと思います。
「仕事や経営には、固定観念にとらわれない思考の柔らかさが、常に大切である」ということを改めて感じます。
「未来は“予測”するものではなく、“創る”ものだ」という言葉があります。
確かに、既存の延長として「創る」ものも多くあります。
しかし、まさにこれからの時代は、「既成概念」にとらわれず「未来を創っていく」ためには「異業種の人」や「異色の経歴の人」にどんどん会ってみる、または「身を置いたことのない場所」や「現在の仕事をしていたらまずは行かないような場所」にどんどん行ってみることの重要性を、この本の少女漫画のような表紙を改めて見て、強く感じました。
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